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福岡地方裁判所 昭和41年(ワ)1261号 判決

主文

被告波田は原告両名に対し金五〇万円およびこれに対する昭和四一年一一月一七日以降完済迄年五分の割合の金員を支払え。

被告学校法人福岡大学は原告両名に対し金五〇万円およびこれに対する昭和四一年一一月一六日以降完済迄年五分の割合の金員を支払え。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを三分しその一を原告両名の負担としその余を被告両名の平分負担とする。

事実

原告ら代理人は「被告波田は原告ら各自に対し六六万二二五円づつおよびこれに対する昭和四一年一一月一六日以降完済迄年五分の割合の金員を支払え、被告学校法人福岡大学(以下単に被告大学という)は原告ら各自に対し金六六万二二五円およびこれに対する昭和四一年一一月一六日以降完済迄年五分の割合の金員を支払え、訴訟費用は被告らの負担とする」旨の判決ならびに仮執行宣言を求め、請求原因として、別紙訴状「請求の原因」欄写(別紙一)記載のとおり述べ、立証(省略)

被告波田代理人は原告らの請求を棄却する訴訟費用は原告らの負担とする旨の判決を求め、答弁として同代理人提出の答弁書「答弁の理由」欄写(別紙二)記載のとおり述べ、立証(省略)

被告大学代理人も原告らの請求を棄却する訴訟費用は原告らの負担とする旨の判決を求め、答弁として、同代理人提出の昭和四一年一一月三〇日付答弁書「事実」欄写(別紙三)記載のとおり述べ、立証(省 略)

別紙一

請求の原因

一、(原告らの業務)

原告らは何れも福岡県宅地建物取引業者の登録を受け不動産売買などの仲介斡旋を業とする者である

二、(原告波多江伝同小林秀樹らの売却方斡旋)

原告波多江伝は昭和三九年十月十一日被告波田泰夫から其の所有の別紙目録記載の土地売却の斡旋依頼を受けたそこで原告は右依頼に基き右土地を数回となく検地境界確認し之を原告小林秀樹ら近所の不動産業者に連絡をなし買主の周旋紹介方を依頼すると共に自らも買主の周旋に尽力した

三、(原告小林秀樹の斡旋)

原告小林秀樹は予て顔見知りの被告学校法人福岡大学々長今村有に右土地の売買方を申入れたるところ原告小林秀樹に対し右土地の買入方を希望し同年同月十五、六日頃売買の斡旋方を同原告に依頼し正規の報酬を支払うことを約した(報酬のことだが少しばかり割引してくれとのことだつた)そこで原告波多江伝は被告波田泰夫に福岡市大字七隈字前牟田の右土地現場に於て原告小林秀樹を紹介し原告波多江伝と同小林秀樹も被告波田泰夫から売却斡旋の依頼を受けたよつて原告ら両名は共同して売買の斡旋を為すことに協定した

四、(原告らの斡旋行為)

かくて原告ら両名は昭和三九年十月十七日買主である学校法人福岡大学々長今村有に右土地の売買契約締結を進めたところ価格の点で妥結するに至らず更に後日互譲した価格を提示して契約を締結の運びとすることにした

五、(被告らの直接取引)

其の後も原告らは双方(被告ら)に対し契約締結の促進を求め斡旋に尽力して来たが被告波田泰夫は暫く時間を俟つてくれとのことだつた

然るに日を経るに従つて原告らの介入を希望しないものゝようで交渉が進展しないと思つている裡意外にも被告らは原告らを除外して秘かに交渉を進め昭和四〇年十一月十日代金四千弐百壱万五千円也で売買契約を締結しているということを同四一年三月九日原告らは知つたしかして被告らは昭和四〇年十一月十一日第一目録物件につき所有権移転登記を経由し売買を完了した

同じく同四一年三月十日第二目録物件につき所有権移転登記を完了した

六、(仲介に於ける事実たる慣習)

ところで不動産の売買当事者が契約締結の斡旋を仲介業者に依頼し業者がその斡旋に尽力して当事者双方を紹介して売買の接衝がなされた時は契約締結の際に業者が立会していなくても(本件のように業者に対する報酬の支払を拒否するため業者を除外して秘かに直接交渉を進めて売買契約を締結した場合も含める)右紹介と接衝に基く契約が成立した以上当事者は業者に対し所定の報酬を支払う義務を負う事実たる慣習があり且つ客から斡旋依頼を受けた業者と共同して斡旋に尽力した業者は客が其の業者の介入を知り乍ら特に之を除外する意思を表示しない限り依頼を受けた業者の有する報酬請求権について依頼を受けない業者と共同してこの請求権を取得する事実たる慣習があつて本件の当事者もこの慣習に則る意思を有していたものである従つて原告らは被告らに対する報酬請求権を共同して行使し得る訳である

七、(報酬額の算定)

ところで報酬金額についてその額は明示の意思表示はないけれども業者の為したる斡旋であるから商法第五一二条により相当額の報酬請求権を有するものであつてかゝる場合その額は宅地建物取引業法第十七条による福岡県告示第十四号に定める率によることの事実たる慣習があり当事者は反対の意思表示をしていないので之に則る意思を有する右告示によれば取引額が金四百万円を越える場合は金弐百万円迄の部分について壱百分の五、弐百万円を越えて四百万円迄の分について壱〇〇分の四、四百万円を越える部分については壱〇〇分の参であるから之の率に則り本件の取引価格金四千弐百参万五千円也に対する計算々定をするときは弐百万円迄につき金壱〇万円弐百万円から四百万円迄の分については金八万円、四百万円を越える部分については金壱壱四万四五〇円也以上合計金壱百参拾弐万四百五拾円也となる

八、仍て原告らは被告らに対し請求の趣旨記載の金員と之に対する訴状送達の翌日以降完済に至るまで商事法定利息年六分の遅延損害金の支払いを求めるものである

第一物件目録

福岡市大字七隈字前牟田壱壱番壱弐四

一、山林 弐反壱畝〇九歩(弐壱〇八、七平方米)

同所 同 壱壱番参

一、畑 壱反歩(九九〇平方米)

同所 同 壱壱番四

一、山林 壱反八畝壱〇歩(壱八壱五平方米)

同所 同 壱壱番壱六七

一、山林 壱畝壱五歩(壱四八、五平方米)

第二物件目録

福岡市大字七隈字前牟田壱壱番壱弐五

一、山林 四畝壱参歩(四参八、九平方米)

同所 同 壱壱番弐

一、宅地 壱百坪(参参〇平方米)

同所 同 壱壱番壱壱六

一、山林 壱反五畝壱四歩(壱五参参、弐平方米)

同所 同 壱壱番壱弐参

一、山林 壱反九歩(壱八八壱平方米)

別紙二

答弁の理由

一、訴状請求原因第一項の主張は不知。

二、前同第二項の主張は否認する。被告波田泰夫は原告波多江伝に対し土地売却の斡旋を依頼したことはない。

三、前同第三項及び第四項の主張は不知。

四、前同第五項の主張中、被告波田泰夫が昭和四〇年一一月六日訴状添付第一目録記載の不動産を被告学校法人福岡大学に売却したことは認めるも、訴状添付第二目録記載の不動産は、訴外波田典正外五名が昭和四一年三月一〇日被告学校法人福岡大学に売却したものである。

更に、被告波田泰夫が原告らに対し契約締結につき猶予を求めていたとの主張並びに原告ら主張の売買代金額は否認する。右売買は、原告らに依頼して、その斡旋によつて成立したものでなく、被告ら間の直接の交渉によつて成立したものである。

五、前同第六項主張の事実たる慣習は不知。

被告波田泰夫が右慣習に則る意思を有していたとの主張は否認。

六、前同第七項及び第八項の主張は凡て否認。

七、仍て、原告らの請求には応じられない。

別紙三

事実

一、訴状記載の請求原因第一項は不知。

二、同第二項の事実は不知。

三、同第三項の事実は不知。

但し、昭和三十九年秋頃原告小林が今村学長に対して、「福岡市大字七隈字前牟田の約三千坪の土地を坪当り一五、〇〇〇円程度の価額で大学に売却して貰いたいと所有者波田氏から依頼されて来たが、大学では購入するつもりはないか」との申入があり、学長は、「その土地は大学で購入して貰いたい土地だが、価額が若干高いようであるから、一万二、三千円位にならないか」と価額の交渉を依頼したが、其の後原告小林から坪一五、〇〇〇円でも購入出来ないとの報告があつたので、直接被告波田に確かめさせたところ、売却の意思もなく、売却の斡旋を依頼したこともないことが判明した旨の報告を受けた事実はある。

四、同第四項は不知。但し、前述のように所有者波田(被告)は代金額の如何に拘らず売却の意思がなく売却周旋方を依頼した事実もないことが判明して、該土地に関する原告小林と今村学長との関係は終了していたものである。

五、同第五項中、被告大学は、昭和四十年十一月六日被告波田から訴状添付第一目録の不動産買受の契約を締結し、二回に分けてその所有権移転登記をしたことは認めるが、第二目録の土地は被告波田から買受けたものでなく、訴外波田典正外五名から買受けたものである。なお、買受代金額は否認する。

その余の事実は不知。

被告大学が右土地を買受けた経緯は次の通りである。

被告大学においては、学校拡張のため昭和三十八年中から本件土地買収の計画を立て、三十九年夏頃になつて被告波田の意向を打診したところ、将来のことは兎も角として、現在では売却し難い事情があるとのことであつたから、それは後廻しにして、先ず工学部用地に隣接する訴外溝口虎彦所有の土地買収に専念し、昭和三十九年秋頃はその接衝を続けていたのである。その頃、前述のように、原告小林から今村学長に対して、地主から売却方を依頼されたと称して、買収方の申入をして来たので、同学長が売買価格の交渉を頼んだが、右原告小林の申入は、地主の意思によるものでなかつたことが判つて、その儘立消えに終つていたのである。然るに、その後昭和四十年夏に至り、被告波田が予て知合の間柄である被告大学の学生寮舎監東田隆次郎を訪ねて来て、本件の土地は「子供達に贈与することにした」旨を話し、売却できる事態となつたことを告げたので、早速、被告大学側から事務局長田中円三郎、財務課長中川一男、それに前記東田隆次郎も加つて被告波田と度度具体的交渉を重ねた結果、売買契約が成立するに至つたものである。なお、被告波田が右のように東田隆次郎を訪ねたのは、前に原告小林の前記申入による交渉が不調となつた直後、東田外二名の職員が被告波田を訪ねて、その理由を質した際、被告波田は、「前にも大学側の人に話したように今は売れないし、売る意思もない、何人にも売買の斡旋を依頼したことはない、小林という人には会つたこともない、売買には第三者を介入させない、売れるようになつたときはなるべく大学に売るようにしよう、今は売れないが坪二万円位はしていると思う」等と話していたので、その言責を重んじて、被告大学に買収の機会を与えに来たものと了解した。以上のように本件土地買収は、これえの着眼、買収の動機から売買の交渉、契約の成立に至る迄、何等原告等に負うところはないし、原告等に秘密裡に為したわけでなく、原告小林は、これを知つて了承していた筈であつて、本件報酬の請求は失当である。

六、同第六項中、原告等主張の慣習の存在は不知、被告大学が右慣習に則る意思を有していたとのことは否認。

七、本件土地売買については、如何なる意味においても原告等の斡旋行為は存在しない。従つて、商法第五一二条適用の余地はない。

その他請求原因第八項の事実については、宅地建物取引業法第十七条による福岡県告示のあることは認めるが、その余は不知。

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